コラム

ラリー遠田の"テレビのひとコマ"

ビートきよし「四暗刻一発ツモってのがある」/ビートたけし出演『チマタの噺SP~たけし噺2016~』より

『チマタの噺SP~たけし噺2016~』/2016年12月27日放送・テレビ東京

お笑いコンビとはつくづく不思議なものだと思う。コンビという関係の中で、お互いがお互いのことをどう思っているのか。本当の本当のところは本人たちにしか分からない。12月半ばに起こった「NON STYLE」井上裕介の当て逃げ事件に関して、相方の石田明が書いた12月20日付のブログ記事が話題になっていた。記事の中で、石田は事故の被害者や関係者に対して謝罪の言葉を述べながらも「おれの人生から井上引っこ抜いたらおれの人生なんかペラッペラなんですよ」と、相方が自分にとって必要不可欠な存在であることを明言。この記事を読んだ多くの人から「コンビ愛を感じる」「感動的だ」と賞賛の声があがっていた。

ただ、記事全体を冷静に読んでみると、その内容は単なる美談という感じでもない。井上のことは中学の頃からずっと嫌いだったと明言していて、「自己中」「ガサツ」「ポジティブなんて思ったこと1回もない」「機嫌悪いと漫才で手抜くし」と嫌いだと思うところをこれでもかと言わんばかりに列挙している。もちろん、芸人としていい話ばかりするわけにはいかないという照れ隠しの気持ちの表れと見ることもできなくはないが、その割には言っていることが真に迫りすぎている。全然ポジティブではないとか漫才で手を抜くのが許せないとか、井上というタレントにとって致命的とも言えるようなことまで包み隠さずはっきり書いている。結局のところ、井上が自分にとって唯一無二の相方であるという気持ちも本物だし、嫌いなところが山ほどあるというのも本心なのだろう。こういうのがコンビという関係性の独特なところだ。

石田のブログ記事が美談として扱われるのは、受け手が彼らの関係性を何らかの友情や愛情の物語に引き寄せて理解しているからだろう。家族や恋人に対する愛情、親友に対する友情。そういったものに並ぶものとしてコンビの関係を捉えているのだ。それが間違いというわけではないが、事情はもう少し複雑である。

石田の過去の発言なども含めて考えると、石田には漫才に対する並々ならぬこだわりがある。そして、自分が漫才をやるなら相方は井上しかいない、という思いもある。いわば、石田にとっての井上は、漫才というビジネスを行う上での商売道具のようなものなのだ。ただ、単なるツールというわけでもない。「NON STYLE」という看板を背負って、自分にできないことを補ってくれる存在でもある。そもそも石田が漫才を始めたのも井上に誘われたからだった。井上がいなければ“芸人・石田明”は確実に存在していなかっただろう。

この感じを適切に言い表す言葉が日本語の辞書にはない。松本人志(ダウンタウン)はかつて「相方が1人で活躍しているのを聞いたら誰よりも嬉しいし、誰よりもムカつく」と語っていた。“格差コンビ”の代表のように言われることが多い「ピース」の2人も「綾部が又吉の人気に嫉妬している」というような単純な関係でないことは何となくうかがい知れる。一見すると正反対の性格のように見えるが、実は2人はもともと仲が良く、お互いの才能を認め合っていた。綾部祐二がニューヨークに行くのも「逃亡」ではなく「挑戦」だ。器用な綾部はこの機会に何かを成し遂げるに違いないし、そんな綾部のことを「アイツらしいな」とニヤリと笑いながら見守る又吉直樹の姿も想像できる。

お笑いの歴史上、最大レベルの格差コンビと言えば、やはり「ツービート」ということになるのではないか。かたや、テレビの世界で頂点を極め、映画監督としても知られる「世界のキタノ」。かたや、金銭トラブルが報じられたこともある豪快な遊び人。いまだに「コンビ解散」は明言されておらず、いずれまた漫才をやるのではないかという噂は絶えない。

12月27日放送の『チマタの噺SP~たけし噺2016~』(テレビ東京)では、笑福亭鶴瓶とビートたけしが2人きりでスタジオでトークを繰り広げた。今年の世相を振り返る2人の軽妙な語り口に引き込まれていると、VTRに1人の人物が映し出された。ワイプ画面に映るたけしが思わず苦笑いする。そこには、忘年会で一般人に交じってはしゃぐビートきよしの姿があった。経営者が集まる忘年会で、社長連中に媚びを売って仕事をもらおうとするきよし。タダ酒が飲めるからいいね、と嬉々として語る。酒の席で主の機嫌を取ることを生業とする古き良き幇間(たいこもち)そのもの。テレビからネットまで各種メディアがこれだけ発達した時代にあっても、きよしは昔ながらの芸人のままだ。

きよしは「今年の気になるニュース」を尋ねられて、たけしがフランスで勲章を受章したことを挙げた。そして、自分自身のニュースについて聞かれてこう答えた。

「四暗刻一発ツモってのがある」

相方はフランスで勲章を得て、自分は遊びの麻雀で役満をあがる。フリからオチまでの落差がありすぎて耳がキーンとなりそうな衝撃の一言。たけしはそんなきよしの一語一句にあきれ果てて「まだ相方だと思ってやがる」「昔の別れた女みたいだ」とぼやきながらも、どこか嬉しそうでもある。こんなたけしですら「自分が漫才をするなら相方はきよしさんしかいない」と明言している。他の芸人とはどんなにやっても「間」が合わないのだという。コンビとは本当に不思議なものだ。

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コラムニスト

ラリー遠田

ラリー遠田

1979年生まれ。東京大学文学部卒業。作家・ライター、お笑い評論家として執筆、講演、イベントプロデュースなど多方面で活動。主な著書に『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)がある。『ヤングアニマル』(白泉社)に連載中の漫画『イロモンガール』の原作を手がける。

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