コラム

ニッチェ・江上敬子「次来るのちょっと怖い」/『ドッキリアワード2017』炎上事件より

バラエティ

『超人気番組が一挙集結 夢の祭典! 番組対抗! ドッキリアワード2017』(TBS系)/2017年1月2日放送・TBS系

火事ってそんなに大変なことだろうか。「対岸の火事」という言葉があるように、向こう岸で起こっている火事は、こちら側に住んでいる人にとっては全く関係のないことだ。ましてや、自分の視界にも入らないような遠い世界で起こっている火事なんて、本来ならば知る必要がないし、そのことで一喜一憂する意味もない。

ところが、ネットにおける「炎上」だけは事情が違う。炎上事件は年々増えていて、ボヤ騒ぎ程度のものを含めれば毎年何百件、何千件というすさまじいペースで巻き起こされている。特に大きく広がりやすいのは、芸能人をターゲットにした事件だ。テレビ番組の中で不適切と思われる演出や発言があった場合、そのターゲットが執拗に批判され、そのこと自体がネットニュースなどの形で拡散され、さらに多くの人の目に触れるところとなる。そして、最終的には制作者やタレントがその騒動についてコメントを出す立場に追い込まれることもある。

2017年の年明け早々にもちょっとした騒動があった。1月2日(月)放送の『超人気番組が一挙集結 夢の祭典! 番組対抗! ドッキリアワード2017』(TBS系)で、「ニッチェ」の江上敬子に仕掛けられたドッキリ企画が、あまりにも非人道的だと批判されたのだ。仕掛け人を務めたのは、和田アキ子をはじめとする『アッコにおまかせ!』(TBS系)の出演者たち。和田が理不尽なことで江上に怒りをぶつける、というのがこの企画の根幹だった。ドッキリのネタばらしの後、和田は江上を『アッコにおまかせ!』の準レギュラーにすることを告げた。ところが、恐怖に脅える江上は不安そうに「次来るのちょっと怖い」と口にしていた。

このことがネットで騒がれているのを知って、録画した番組を確認してみて拍子抜けした。バラエティ番組としてはごく標準的なドッキリ企画の範囲にとどまっていて、格別ひどいものだとは感じられなかったのだ。確かに、目上の人が下の立場にいる人に対して怒ったふりをするというタイプのドッキリは、受け手を選ぶようなところはある。どんなに穏便にまとめたとしても、企画そのものに不快感を感じる人はゼロにはならないだろう。だが、それにしても、ネット上のこの反応はあまりにも過剰であるように感じられた。なぜこのドッキリ企画に対してこんなに大きな反発が起こったのか?

仮説として考えられるのは、そもそも和田アキ子というタレントに良い印象を抱いていない人が一定数存在していて、その人たちが一斉に反発の声をあげた、ということだ。さらに言えば、その中には実際の映像すら見ていない人も多いのではないかと思う。火事に例えるなら、火事を直接自分の目で見ていた野次馬ではなく、野次馬から噂話を聞いただけの人間である。この人たちは、実際の番組内容がどうだったかにかかわりなく、「和田アキ子がニッチェ江上に激怒」というネットニュースの見出しだけを見て、感情的な反応をしているのだと思う。

仮にそうだとしたら、次に考えるべき問題は「なぜ和田はネット上でそんなに嫌われているのか?」ということだ。思うに、ここで本当に嫌悪の対象となっているのは、和田そのものではなく、それが象徴している「権威」である。和田は歌手でありながら“芸能界のご意見番”としてバラエティ番組でも長きにわたって活躍してきた。彼女は芸能界の有力者たちとも友好関係を築いている。それを基盤にしているからこそ、彼女の権威はなかなか揺らぐことがなかった。

ところが、「SMAP」解散騒動をきっかけにして、そういった権威的なものに対する世間のイメージが変わった。日本一の国民的人気アイドルグループが不可解な理由で解散してしまったのだ。人々は権威を憎み、忌み嫌い、不信感を持つようになった。和田アキ子はそんな「憎むべき芸能界の権威」の象徴である。偉そうな和田と彼女に気を使う共演者たちの姿を通して、視聴者はそこに「芸能界のイヤな部分」を勝手に読み込んでしまうのだ。これは単なるイメージの問題なので、本人やまわりのタレントがどんなにフォローしたとしても、塗り変えることが難しい。

例えば、私たちは2011年以降、「放射能」や「原子力」をテーマにしたネタで笑うことができなくなってしまった。2010年の年末の『M-1グランプリ』では、「スリムクラブ」が「放射能」というキーワードで爆笑をさらっていたが、あのネタはもう二度とできないだろう。覆水盆に返らず。一度できてしまった悪いイメージはなかなか覆せないものだ。

いわば、和田アキ子とその共演者たちは、バラエティ番組で「権力者とそれに媚びへつらう庶民」という内容のコントを演じていたようなものだ。それは、権力をシャレだと思える時代には十分通用していた。ただ、今はこれが時代に合わなくなってきている。横暴な権力者のコントでは誰も笑えなくなりつつあるのだ。昨年末、和田アキ子が『NHK紅白歌合戦』の選考に落ちたのも、時代の節目を象徴する出来事だったのかもしれない。傍若無人な権力者の横暴は、もはや笑って許してはもらえないのだ。

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コラムニスト

ラリー遠田

ラリー遠田

1979年生まれ。東京大学文学部卒業。作家・ライター、お笑い評論家として執筆、講演、イベントプロデュースなど多方面で活動。主な著書に『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)がある。『ヤングアニマル』(白泉社)に連載中の漫画『イロモンガール』の原作を手がける。

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