コラム

ラリー遠田の"テレビのひとコマ"

ベッキー「皆さんに応援される恋愛がしたいです」/『モシモノふたり』より

『モシモノふたり』/2017年1月11日放送・フジテレビ系

ベッキーのことを語るのは気が重い。ベッキーはいつも我々視聴者に「私のこと、好き? 嫌い?」という窮屈な二者択一を投げかけてくる。しかも、「もちろん好きだよね?」という脅迫めいたニュアンスのこもった聞き方で。ベッキーは、多くの人に好かれていたわけではなく、そこで問いに答えず口をつぐんだ者の白票をまとめて「好き」に割り振る強引さによってこれまでの地位を築いてきた。明るくて、元気で、かわいくて、真面目で、努力していて、そこそこシャレも通じるハーフの女の子のことを、誰もが好きにならないはずはないからだ。

ベッキーのこのような手口を踏まえて、有吉弘行は「元気の押し売り」という見事なあだ名を与えて、警告を発していた。だが、その押し売り行為の問題点が省みられることはないまま、運命の時が訪れた。元気な女の子は、先陣を切って元気に敵陣に飛び込み、文春砲の餌食となった。

ベッキーのことを語るのに抵抗を感じるのは、今の彼女について是か非かの態度を決めなければならないとする世間の重苦しい圧力を感じるからだ。世の中の人がベッキーと彼女が起こした事件に関してこれほどまでにナーバスになってしまうのは、今まで彼女が延々と続けてきた押し売り行為に対する反動だろう。二者択一を迫るベッキーのことを密かに疎ましく思っていた人々が、今度は逆の立場になって彼女を二者択一で裁こうとしている。どちらにもなかなか乗り気になれない。

今年に入り、ベッキーがいよいよ本格的にテレビに復帰している。1月11日(水)放送の『モシモノふたり』(フジテレビ系)では、実の妹でダンサーのジェシカ・レイボーンと共に出演。2人の同居生活に密着するという内容だった。2人で料理を作ったり、ドライブに出かけたりしながら、謹慎期間中の思い出などを話していた。休業のときには家から外に出られず、テレビもEテレしか見られなかった。外から聞こえるうぐいすの鳴き声だけが楽しみだったという。

そんな2人のもとに現れたのがヒロミと近藤春菜(ハリセンボン)。ヒロミはベッキーにとって頼もしい兄貴分のような存在。バラエティに出ている仲間として、親身になって励ましてくれたという。また、彼は自分自身がテレビに出ていない期間が長かったからこそ、その経験を踏まえて説得力のある意見を言うことができた。

「言い方は悪いんだけど、一回落ちたって認識しないと。これ、俺ものちに分かったことよ、10年間かけて。意外とこう、落ちたって思わないんだよね。どん底だと思っても本当に底だと思ってない。思ったと思わない限り登らないじゃんね。だから、そういうのがあった方がいいんだよね」

作家・坂口安吾が『堕落論』(銀座出版社刊)で説いたのと同じ、堕落のススメである。落ちた人間に必要なことは、落ちたと自覚することである。どん底まで落ちたという意識がなければ、そこから上がることもできない。あくまでも優等生キャラを維持しようとする習性が抜けないのを見て、ヒロミは誠実にアドバイスを送った。

ただ、この言葉がベッキーに届いたかどうかは分からない。ヒロミと春菜が帰ってから、ベッキーは自分のこれからの恋愛について語っていた。そして、自分の将来についてこんな言葉を残していたのだ。

「皆さんに応援される恋愛がしたいです」

これはもはや押し売りではなく“強奪”である。人気と好感度の強奪。しかも、成功する見込みの薄い無謀な計画だ。この「皆さん」は、「オードリー」の春日俊彰が漫才の中で「皆さん、本物の春日ですよ」と言うのと同じだ。春日の上から目線と違って、ベッキーの上から目線は本気だ。だからこそ始末に負えない。

芸能人とは「売れたい」「目立ちたい」「愛されたい」という欲望の塊である。我々視聴者は、楽しませてくれるという限りにおいて、その欲望の暴走を許容しているにすぎない。ベッキーにはこの点の認識が足りなかったし、今も足りていないのではないかと思う。エンタメになっていない自己顕示欲の暴走は、ただ不気味で恐ろしいだけだ。

ベッキーのことを語るのはやっぱり気が重い。彼女が今まで通りの優等生キャラを貫く限り、それを批判するこちら側が罪の意識のようなものを感じてしまうことになるからだ。頼むから、もっと気楽にイジらせてほしい。共演者や視聴者にも気を使わせないでほしい。「センテンススプリング!」を自分の持ちギャグとしてトークの要所要所で挟み込んでいってほしい。いったんどん底に落ちるとはそういうことだ。押し売り稼業から足を洗い、誠実な商売に徹してほしいと思う。

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コラムニスト

ラリー遠田

ラリー遠田

1979年生まれ。東京大学文学部卒業。作家・ライター、お笑い評論家として執筆、講演、イベントプロデュースなど多方面で活動。主な著書に『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)がある。『ヤングアニマル』(白泉社)に連載中の漫画『イロモンガール』の原作を手がける。

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