コラム

ラリー遠田の"テレビのひとコマ"

細川たかし「プロダクションの社長が俺を疑ってるんだから」/『アウト×デラックス』より

『アウト×デラックス』/2017年1月19日放送・フジテレビ系

「人は見た目が9割」と言われるが、「薄毛タレントは頭部が9割」というのもあながち間違いではない。ハゲを力強く肯定して二枚目を気取る「トレンディエンジェル」の斎藤司が登場して以来、人々のハゲに対する意識も徐々に変わりつつある。だが、やはり他人がどう思うにせよ、最終的には本人がどう思うかが問題となってくる。その中で「かぶる」という禁断の果実に手を伸ばす人も出てくることになる。

「かぶっている人」には大きく分けて二種類いる。かぶっていることがバレバレな人と、かぶっているっぽいけど本当はどうなのか分からない人だ。前者は人目に触れる機会が少なく浮世離れした学者や政治家に多く、後者はテレビタレントに多い。ここで扱いが難しいのが後者の場合である。後者はあくまでも「かぶっているかもしれない人」に過ぎない。決定的な証拠が出ない限り、本人はどこまでもシラを切るし、視聴者はどこまでも疑わしく思うし、ビートたけしを筆頭に芸人たちはいつまでも彼らをネタにすることになる。

そんな「かぶってる人」業界に革命を起こしたのが細川たかしだ。彼の頭髪プロデュース戦略はあまりにも斬新で画期的だった。昨年、テレビ出演時に細川たかしの髪型がとんでもないことになっている、とネット上などで話題になった。生え際が常識を超えて極限まで上がりきり、不自然なまでに黒々としたスチールウールのような髪の毛がガッチリと固まっている。かぶっていることがバレバレな人の頭部には明らかに違和感が残るものだが、細川の頭部が放つ違和感はそれとは別物だ。見る者が薄毛かどうか、カツラかどうかを気にするより先に、度肝を抜かれて言葉を失ってしまう。

本来ならばカツラとは薄毛を隠すためのものであるはずだ。つまり、目立たないことを目的とすべきである。ところが、細川の頭部は圧倒的に目立つ。もはや「かぶってる疑惑」とかそういう次元ではない。「かぶっている・かぶっていない」の不毛な二元論から脱して、細川は未知の次元へとワープした。

細川はこの件でいくつかの番組に出て自らの口から事情を説明していたわけだが、その極めつけとも言えるのが1月19日(木)放送の『アウト×デラックス』(フジテレビ)だった。まず、『NHK紅白歌合戦』は辞退したのに『アウト×デラックス』は断らなかった、という話題に触れて、「やっぱり長いこと歌っていると、暮れは休みたいよね」と赤裸々な本音を漏らした。

そして、ついに核心となる「かぶってる疑惑」について触れた。ここでの対応が神がかっていた。単に否定するだけなら面白くも何ともない。細川は現在の髪型になった経緯を丁寧に説明した。髪型が乱れないようにスプレーでガチガチに固めているだけだというのだ。そして、事務所の社長までも細川のカツラを疑い、他人とそのことで賭けをして電話をかけてきた、というエピソードまで披露した。社長はカツラの方に賭けていたので、そうではないと釈明すると電話口で残念そうにしていたという。

「珍しいよね。プロダクションの社長が俺を疑ってるんだから」

ここで細川は、カツラの真偽よりも面白いエピソードをおみやげとして用意することで、核心を突かれることを巧妙に回避していた。その後も、風呂上がりなどの普通のときにはどんな髪型なのかと問われると、このままですよ、とあいまいな返答。そこで、白髪が気になるから剃っているんだと答えて、おでこの両端を示すことで、不自然な髪型に至った理由は薄毛自体ではなく白髪部分を剃っていることにあるというふうに問題の争点をずらしてみせた。この手口も見事。さらに、触らせてほしいという遠野なぎこの誘いにも快く応じて、カツラではないという確認を得た。

何もかも完璧である。相手がどんなに踏み込んでも、細川の急所には命中しない。達人の間合いで決して的を絞らせないのだ。頭頂部をイジられたときの返しのうまさでは、こっちの「たかし」は「斎藤さん」にも負けていない。

世間を騒がせた芸能人は謝罪会見や釈明会見を開いたりするのが通例になっているものだが、そういう人たちにとってもこの細川のやり方は参考になるのではないだろうか。会見場に集まったマスコミ関係者が本当に聞きたいのは、事件の真相ではなく記事の見出しになりそうな面白いネタなのだ。おみやげをばらまいて問題をうやむやにしてしまう天才・細川たかし。その鮮やかな手口にはただ「脱帽」するしかない。

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コラムニスト

ラリー遠田

ラリー遠田

1979年生まれ。東京大学文学部卒業。作家・ライター、お笑い評論家として執筆、講演、イベントプロデュースなど多方面で活動。主な著書に『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)がある。『ヤングアニマル』(白泉社)に連載中の漫画『イロモンガール』の原作を手がける。

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