コラム

ラリー遠田の"テレビのひとコマ"

千原ジュニア「オンエアからハブかせてもらいます」/『オトせ!』より

『オトせ!』/2017年2月1日放送・日本テレビ系

「芸人なら、笑われるのではなく、笑わせなくてはいけない」などということがまことしやかに言われることがあるけれど、一般に思われているほど「笑われる」と「笑わせる」の区別は明確ではない。

例えば、記者会見で芸能記者に取り囲まれ、大量の汗をかきながら必死で弁明をしている狩野英孝は、笑われているのか、笑わせているのか。それを見て匿名のつもりで特定の事務所を批判する趣旨のコメントを書き込んだのが判明してしまった田村亮(ロンドンブーツ1号2号)は、笑われているのか、笑わせているのか。

彼らは一般には「笑われる側」の人間だと思われているが、ありのままの姿で人前に立ち、笑いを起こし続けるというそのあり方が、俯瞰で見ると「笑わせる側」であると言えなくもない。笑わせるのも笑われるのも、現にそこに笑いが生まれるという点ではさほど違いがない。

芸人にもいろいろなタイプがいるが、千原ジュニア(千原兄弟)は「笑い」という営みそのもの、「笑わせる」という行為そのものに並外れた好奇心と探究心を持っている芸人である。芸人の誰もが笑いを愛しているのは当然だが、その愛の形には微妙な違いがある。料理人で例えるならば、おいしい料理を作りたいという思いを持っているのは誰でも同じなのだが、千原ジュニアは料理の可能性を極限まで追究しようとするタイプだ。

例えば、「ニンジン1本で作れる最高の料理とは何か?」「砂糖や甘味料を一切使わずに甘みを生み出すことは可能なのか?」「最も安上がりで最もおいしい料理とは何か?」というような課題を立てて、それを解くことに異常な執着心を見せる。千原ジュニアは、人を笑わせること自体が好きであるのと同じくらい、笑いというおもちゃで遊ぶことも好きなのだ。

昨年10月、テレビ番組表に『オトせ!』という文字を見つけたとき、それが千原ジュニアMCの番組だろうということが即座に予想できた。芸人たちがステージに上がり、一般人のオチのない話を聞かされる。そこにオチを作って落とすことができるかどうかを競う、というもの。オチを付けることに成功すれば一般人が落とし穴に落ち、失敗すれば芸人本人が落ちてしまう。まさにジュニアが用意した「笑いの実験室」という趣だ。そんな『オトせ!』(日本テレビ系)の第2弾が2月1日(水)に放送された。

この番組を見ていて分かるのは、話を聞いてオチを付ける芸人の「受け」の技術の巧みさである。ボケに対するツッコミというものは一般的にも知られているが、受けの技法はそれだけにとどまらない。つまらない話を投げかけられたときにも、さまざまな受け返しのテクニックがあり、それによって芸人は無風状態から笑いを起こすことができる。何を言うか、どう言うか、どのくらいの声量で言うか。その選択に彼らのセンスが問われる。芸達者な礼二(中川家)や味わい深いツッコミが光る小峠英二(バイきんぐ)が順当に活躍していたのはもちろん、「千鳥」の大悟も切れ味鋭い返しを連発して場を沸かせていた。

さまざまな芸人が見事な技を披露した後で、岡田圭右(ますだおかだ)が2回目にこの競技に挑んだとき、相手として現れたのは亀田興毅だった。亀田は、自分が父親に強制された奇妙なトレーニングの話をした。ハブを捕まえるというトレーニングを課されたという話を披露して、場が静まり返った。そこで岡田は自信たっぷりにこう返した。

「ハブだけに、まさにもうそのトレーニングは、ハブきましょ、と。これでいいでしょう」

もちろん失敗と判定され、岡田は穴に落とされた。きれいにオチを付けたつもりだった岡田は納得がいかない様子。そんな彼を諭すようにMCのジュニアはこう告げた。

「たぶんですけど、オンエアからハブかせてもらいます」

オチを付けたのはジュニアの方だった。ここでは芸人が笑わせる力を純粋に試される。「一般人が面白くない話をする」という、考えられる限りで最悪の状況の中で、それをひっくり返せるのは本物の実力者だけだ。この手の番組では、番組自体が面白いのはもちろん、楽しそうにしているジュニアを眺めること自体がもうひとつの楽しみになる。笑いの実験室のマッド・サイエンティスト。笑いの結晶が生まれる瞬間を見届けようとする千原ジュニアのまなざしは、STAP細胞を見つめる小保方晴子のそれと同じくらい純粋だ。

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コラムニスト

ラリー遠田

ラリー遠田

1979年生まれ。東京大学文学部卒業。作家・ライター、お笑い評論家として執筆、講演、イベントプロデュースなど多方面で活動。主な著書に『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)がある。『ヤングアニマル』(白泉社)に連載中の漫画『イロモンガール』の原作を手がける。

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