コラム

ラリー遠田の"テレビのひとコマ"

矢作兼「とんねるずがお金払うなんてことあっていいの?」/『とんねるずのみなさんのおかげでした』より

『とんねるずのみなさんのおかげでした』/2017年2月9日放送・フジテレビ系

Webの世界では、どうやら和田アキ子は「パワハラタレント」として認定されているらしい。生放送の本番中に「狩野英孝に今すぐ電話をかけてみろ」と出川哲朗に強要したことがパワハラだと批判を浴びているのだという。

この件に関して世間ではさまざまな意見があったが、個人的に最も面白かったのは『ワイドナショー』(フジテレビ)での松本人志(ダウンタウン)の発言だ。松本は、和田の前述の行為を「いや、パワハラでしょ」と一蹴。さらに、事前に楽屋で電話させるかもしれないと出川に持ちかけていたのもパワハラだし、あとから「出川、これってパワハラじゃないよな?」と言うのもパワハラだと述べた。最高だ。松本の言うことは単に笑えるだけでなく、すぐれて批評的でもある。ここで松本が本当に皮肉の対象としているのは、安易に「パワハラ」とレッテルを貼ってしまいがちな世間一般の人々なのだ。

その後に続けて、松本は「バラエティの世界でパワハラは“必要悪”である」とも語っている。この意見は、テレビマンやテレビタレントならば恐らく多くの人が同意する正論に違いない。

しかし、このことに関する世間一般とテレビ業界の間の温度差はなかなか埋まりそうにない。バラエティで行われている「パワハラっぽいこと」をパワハラと見なすか見なさないかの判断は、結局のところ視聴者に委ねられている。パワハラ的なノリをどうしても好きになれないという視聴者は昔から一定の割合で存在していたし、今後はますます増えていくだろう。そんな時代の流れの中では、古き良き「パワハラ芸」を売りにしてきた和田アキ子のようなタレントはどうしても苦戦してしまうことになる、というのは過去の本連載でも書いた通りだ。

同じように、長年パワハラ芸を得意としてきたタレントとして、「とんねるず」が挙げられる。「とんねるず」は、高校の運動部のノリをテレビの世界に持ち込み、セクハラ、パワハラ何でもありの自由奔放なキャラクターで80~90年代に若者を中心に絶大な支持を得た。21世紀に入ってからも彼らはテレビの第一線で活躍し続けてきた。ただ、最近ではようやくその勢いにも陰りが見える。現在のレギュラー番組は『とんねるずのみなさんのおかげでした』(フジテレビ)1本のみ。それぞれが単独で出ていたレギュラー番組はいずれも短命に終わり、コンビとしての特番でも数字を残せていない。八方ふさがりの苦しい状況が続いている。

彼らのパワハラ芸を象徴する企画と言えば、最近ではやはり「時計を買う」シリーズだろう。偽の企画で後輩芸人を呼び出して高級時計店に連れて行き、自腹で時計を買わせる。混じりっけなしの“純正パワハラ企画”である。

芸人がひどい目に遭う企画はほかにもたくさんある。例えば『ぐるナイ』(日本テレビ)の「ゴチになります」では、食べた料理の合計金額を当てられなかった人が罰として自腹で全員分の支払いをすることになる。『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!!』(日本テレビ)の「笑ってはいけない」では、我慢できず笑ってしまった人が罰として尻を叩かれる。そこには企画を成立させるための「罪」と「罰」の対応関係が一応は存在している。

だが、「時計を買う」にはそれがない。後輩芸人は、何の罪もなく、ただ自腹で時計を買わされるのだ。「とんねるず」の番組の企画としてそれが行われているというだけで、彼らはどうしても時計を買うのを断ることができない。その結果、数十万円から数百万円の買い物をする羽目になる。これが企画として成立するのは、仕掛け人があの「とんねるず」だからだ。パワハラ芸で一時代を築いたカリスマパワハラ芸人のパワハラだからこそ、その罪が薄まって面白い企画として成立する余地がある。

パワハラに厳しいこのご時世に、こんな企画がまかり通っているということ自体、「とんねるず」がいかに特異なタレントであるかということを物語っている。彼らに多額の出費を強要されたとき、若手芸人たちは一様に困りながらも嬉しそうにしている。それはパワーの押しつけではあるが、彼らにとってハラスメント(嫌がらせ)ではないのだろう。

ただ、2月9日(木)放送の『とんねるずのみなさんのおかげでした』では少し変化の兆しがあった。結婚したばかりの矢作兼(おぎやはぎ)が、新婚旅行をするべきだと「とんねるず」に勧められて、総額168万円のハワイ旅行を契約させられてしまったのだ。ところが、渡された書類を見て矢作は驚いた。その支払名義人は「とんねるず」になっていたからだ。

「えー!? こんなことがあっていいの? ねえ、とんねるずがお金払うなんてことあっていいの?」

掟破りの逆払い。企画の根底を覆す「とんねるず」による全額支払いは、長年この番組に携わってきた矢作をも驚かせた。これは、「とんねるず」と番組による粋な計らいでもあり、パワハラに厳しい時代に対応した新しい方向性の模索の結果でもあるのだろう。和田アキ子が反省し、とんねるずがお金を払う。パワハラ芸の終わりとハードボイルド・ワンダーランド。テレビが暴力的な笑いに満ちていたハードボイルドなあの時代には、もう二度と戻らないのかもしれない。

オススメ記事
コメント
もっと見る
話題の人物
コラムニスト

ラリー遠田

ラリー遠田

1979年生まれ。東京大学文学部卒業。作家・ライター、お笑い評論家として執筆、講演、イベントプロデュースなど多方面で活動。主な著書に『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)がある。『ヤングアニマル』(白泉社)に連載中の漫画『イロモンガール』の原作を手がける。

執筆記事を読む

あわせて読みたい
Recommended by A.J.A.

一覧へ戻る

ページTOP

ページTOP