コラム

ラリー遠田の"テレビのひとコマ"

綾部祐二「4泊6日じゃないですよ!」/『1周回って知らない話』よりNY行きを巡って

『1周回って知らない話 坂上忍&ローラが初告白SP』/2017年2月15日放送・日本テレビ系

いきなり何を言い出すんだ、という感じのことを言う人が芸能界には定期的に現れることになっているらしい。「脱ぎます」「AVに出ます」程度ではもはや珍しくも何ともないが、「出家します」ぐらいになると今でもなかなかの破壊力がある。事務所、宗教団体、本人という3つの場所からそれぞれバラバラの主張が発信され、もつれて絡まった糸のように収拾がつかなくなっている。解読不可能な状況を前に人々の意見も割れる。宗教が苦手な人は宗教を叩き、もともと事務所に悪いイメージがある人は事務所を叩き、立場上どちらも叩けない感じの人たちは仕方なく本人を叩く。弱い者たちがさらに弱い者を叩くこの無間地獄を目の当たりにして、『TRAIN-TRAIN』でも歌いたい気分だ。

さて、そんなハッピーなサイエンスの彼女とは別の意味で「いきなり何を言い出すんだ」と視聴者に心配されまくっているのが、ピースの綾部祐二である。昨年10月、突然のニューヨーク行きを発表。今ある仕事をすべて捨てて、単身でニューヨークに行くというのだ。行ってどうするのか、詳しいことは今ひとつ明らかになっていない。

そんなわけで、2月15日放送の『1周回って知らない話 坂上忍&ローラが初告白SP』にピースの2人が出演。綾部が噂になっているニューヨーク行きの真相を語っていた。これぞ綾部版「全部、言っちゃうね。」状態になるのかと思いきや、そんなに一筋縄でいく話ではなかった。綾部の説明はとにかく要領を得ない。結局なにをするのか、どうしたいのか、ということが知りたいのに、その答えがはっきりしないのだ。明確になっているのは、彼がただ有名になりたい、ということだけ。

「もともと芸人になったきっかけも、とにかくキャーキャー言われたい。日本一の漫才師、コント師になりたいとか、僕はそういうのはなんにもなくて。とにかく人気者になりたい。そのためには何でも良かった」

ここまでの話を聞いて、MCの東野幸治は苦笑して「ちょ、ちょ、ちょっと待って。1回、鼻殴らせてくれ」と言った。日本でそれなりのポジションを得ることに成功した綾部は、世界を目指すようになった。

「もっとこれをさらに世界的に、もっとアメリカとかでも、もっとキャーキャー言われたい、っていうふうに思うようになってしまったんです」

「いいんです、もし、向こう行って、なんかのタイミングで僕が音楽やって、すごくそれがヒットしました。あとは何か分かんないですけど、ダンス覚えて、ダンスがウケましたって言ったらダンスでも、何でもいいです、結局。何でもいいからアメリカですごく有名になって最終的に映画で1本でもいいからレッドカーペット歩けたらいいな、っていうだけの話でございまして」

綾部の必死の訴えに東野はしばし絶句した後、こう漏らした。

「今すごいアホなやつの話を……」

無謀というよりただの無策。アラフォー男のふわふわした夢の話を延々と聞かされる、悪夢のような光景が展開されていた。陣内智則に「噂ではたぶん4泊6日って聞いてますけどね」とイジられて、綾部は「4泊6日じゃないですよ!」と返していたが、この際、本当に4泊6日の小旅行であってほしい、と願うばかりだ。その方がまだ救いがある。

番組では、相方の又吉直樹が綾部の気持ちを代弁していろいろなことを丁寧に語っていたが、それでも見ている側のモヤモヤした気持ちは晴れないままだ。現時点では、英語を話すこともできないし、住む場所すら決めていない綾部。それどころか、トランプ政権になったことで4月に予定していた渡米そのものが危ぶまれる事態に陥っている。トランプが大統領に当選したのも、綾部を止めるための神の思し召しだったと考えると納得がいく。ゴッド・ブレス・アメリカ。

ただひとつ言えるのは、これが綾部だ、ということ。彼は今までにもこういうふうに生きてきたし、これからも生きていくのだろう。こういう人間でなければ、あの又吉の相方は務まらないのかもしれない。綾部は作品ではなく生き様を見せるタイプの芸人だ。綾部の前に道はなく、綾部の後に道ができる。空っぽのカバンと脳みその中に、綾部は何を詰めて帰ってくるのだろうか。

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コラムニスト

ラリー遠田

ラリー遠田

1979年生まれ。東京大学文学部卒業。作家・ライター、お笑い評論家として執筆、講演、イベントプロデュースなど多方面で活動。主な著書に『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)がある。『ヤングアニマル』(白泉社)に連載中の漫画『イロモンガール』の原作を手がける。

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