コラム

ラリー遠田の"テレビのひとコマ"

小沢健二「前世に帰ってきたみたいです」/『ミュージックステーション』より

『ミュージックステーション』/2017年2月24日放送・テレビ朝日系

「小沢健二が『Mステ』に出る」と聞いて、「うおおおお!」と思う人と、別に何とも思わない人がいる。特に、世代による断絶が大きいのではないかと思う。ある年齢より下の世代の人間は、小沢健二が巨大なポップ・アイコンとして機能していた90年代半ばのあの空気を知らない。

なぜここまでその断絶が深いのかと言えば、彼自身がその活動の痕跡を跡形もなく消し去っていったからだ。普通のバンドの解散や歌手の活動休止などとは違って、彼は音楽活動を続けながらも、日本のポップ・カルチャーの最前線からはスッと身を引いた。その去り際があまりにも鮮やかだったために、彼は“生きる伝説”となった。

私たちの中にはひとつの思い込みがある。それは「知性と感性は相反するものである」ということだ。感性が豊かなアーティストは、それを論理的に説明するのが苦手だったりする。逆に言うと、言葉でうまく表現できないものがあるからこそ彼らは作品を生み出すのであり、論理的思考に弱い人ほどアーティストとして「それっぽい」というふうに思われがちだ。

小沢健二は、誰の目にも明らかなほど知性と感性を両立させている希有な存在である。彼が生み出す音楽、彼が紡ぎ出す歌詞は、確かな知性と感性の両方に裏打ちされたものだ。だからこそ、彼の作品は単純にして複雑、知的であると同時に感覚的でもある。深い思索がシンプルな言葉に置き換わり、それが銃弾となって聴く人の胸を射抜く。彼の音楽や彼自身の独特の存在感は、あとから90年代のヒットチャートに残された数字をたどっていくだけでは決して理解できないだろう。

実際、史上最もCDが売れていた90年代中盤という時代に活動していたアーティストでありながら、小沢には100万枚を超えるセールスを記録した作品はひとつもない。年間に20曲前後のミリオンヒットが出ていたあの時代に、小沢は数字の上では突出した存在ではなかった。だが、その影響力の大きさは空前にして絶後である。

2月24日(金)放送の『ミュージックステーション』で久々に彼は公衆の面前に姿を現した。オープニングでこの番組に出るのは20年ぶりだということを司会のタモリから告げられると、小沢はこう答えた。

「はい、なんか、前世に帰ってきたみたいです」

確かに、21年ぶりにレギュラー回に出演する「X JAPAN」と並ぶ小沢の姿を見ると、まるでこの2組が時を超えて現代に帰ってきたように感じられる。どちらに関しても、戻ってきそうにない人たちが本当に戻ってきたという驚きがある。

小沢の言動を見ると、この人はやっぱり何も変わっていないなあ、と思う。歌う前のMCとのやりとりでは突然「今年あの、フジロックフェスティバルに出ます」と切り出して、MCの弘中綾香アナを慌てさせた。

「え、それ今言っていいことなんですか!?」
「いや、分かりません!(笑)」

自分の中に軸がある人間は、他人に振り回されることがない。だから、結果的に他人を振り回しているように見えたりもする。そして、エンディングで今日の感想を聞かれて一言。

「えっと、20年間この番組が音楽の火をずっと灯し続けてたのが、感動してます」

まじりっけなしのピュア発言。ああ、これが小沢健二だ。そして、こんな人がその純度を保ったままテレビに出ながら活動を継続していくのは到底不可能だったのだろう、とも思う。

オウム真理教による地下鉄サリン事件が起こり、社会不安が広がっていた90年代半ばに、小沢は高らかに「神様」のことを歌い上げていた。それは宗教的な意味の「神」ではなく、日常にあふれている奇跡としての神。例えば、『ミュージックステーション』という音楽番組が20年以上も続いているということ自体が、本来は奇跡的なことなのだ。小沢はそのように、身のまわりにある奇跡を鋭敏に感じて、受け止めて、それを音楽という形で表現する。そもそも、音楽という時間に支配された芸術もまた、常にその場限りの一回きりの奇跡として存在している。音楽を味わう者は、この最高の瞬間がいつまでも続くようにと密かに祈りを捧げている。これは特に宗教的でも何でもなく、誰でもやっている当たり前のことだ。

膨大な量の情報が氾濫して、分厚い雨雲のようにメディアやウェブの世界を覆い尽くしている2017年に、小沢健二の混じりっけなしのピュアな存在感は際立っている。彼は、みんなが忘れている当たり前のことをとてもよく分かっている。

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コラムニスト

ラリー遠田

ラリー遠田

1979年生まれ。東京大学文学部卒業。作家・ライター、お笑い評論家として執筆、講演、イベントプロデュースなど多方面で活動。主な著書に『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)がある。『ヤングアニマル』(白泉社)に連載中の漫画『イロモンガール』の原作を手がける。

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