コラム

ラリー遠田の"テレビのひとコマ"

ブルゾンちえみ「めっちゃネタとばしちゃった……」/キャリアウーマンが泣いた『R-1ぐらんぷり2017』

『R-1ぐらんぷり2017』/2017年2月28日放送・フジテレビ(関西テレビ)系

『M-1グランプリ』は漫才の大会、『キングオブコント』はコントの大会。それらと違って、何が起こるか分からないのがピン芸日本一を決める『R-1ぐらんぷり』だ。参加規定は「とにかく面白いひとり芸」のみ。人間が1人でやることであれば、どんなことをやっても許される。テレビバラエティやお笑い芸がさまざまなルールでがんじがらめになっている昨今、『R-1』だけは何でもありの「バーリトゥード」を維持している。

これまでの優勝者の顔ぶれを見ても、その芸のジャンルは漫談、コント、ものまね、ギャグなど多岐にわたる。昨年の大会では、「ものまね」と分類していいのかどうかすらよく分からない「誇張しすぎたものまね」という異様なネタで“キングオブ地下芸人”ハリウッドザコシショウが見事に優勝。地下の帝王が地上でも栄冠を勝ち取った。

2月28日(火)に放送された今年の『R-1』も、何でもありの大混戦となった。決勝に上がった12人はそれぞれ違った種類の芸を披露しており、その間で優劣をつけるのは容易なことではない。審査員たちが迷いに迷った末、チャンピオンに選んだのはアキラ100%。局部をお盆で隠すという古き良き「ハダカ芸」で優勝を果たした。

彼が勝った理由のひとつは、この番組が生放送だったから、ということだろう。彼がもしも何かの拍子に手を滑らせてお盆を落としてしまったら、取り返しのつかない大惨事となる。その場にいる観客だけでなく、視聴者にとっても衝撃的な大事件となるだろう。いわば、アキラ100%は自らの体を張って、客席とテレビの前のお茶の間の空気をひとつにすることに成功したのだ。全員の目が彼の持つお盆の一点に注がれている。生放送だったからこそ、会場の空気を視聴者の側もリアルに体感することができた。テレビというメディアの底力を改めて感じさせられた。

そしてもうひとつの印象的な出来事と言えば、ブルゾンちえみが泣いたことだ。今年に入ってから一気にブレークして、この大会では優勝候補とまで呼ばれていた彼女は、得意のキャリアウーマンネタを披露。しかし、途中でアクシデントが起こった。言葉に詰まり、ほんの数秒だけ妙な間が空いた。すぐにネタの続きに戻り、何事もなくやりきったようにも見えたのだが、本人のショックは計り知れないものがあったのだろう。ネタが終わった後、司会の宮迫博之(雨上がり決死隊)にコメントを求められたブルゾンは、悲しげにこう言った。

「めっちゃネタとばしちゃった……」

そして涙を浮かべた。まさかの涙に客席が騒然となっていた。彼女が泣いてしまったのは、与えられた仕事をきっちりこなす「キャリアウーマン」として、ミスをしてしまった自分自身がどうしても許せなかったからだろう。

実際、彼女のミス自体はそれほど深刻なものではなかったように見える。セリフを忘れてしまった瞬間から、彼女は実にスムーズに軌道修正を果たし、元のネタの流れに戻ることに成功していた。視聴者や観客の中には、彼女がミスをしたことに気付かなかった人も多いのではないか。また、そのミス自体はささいなものだったため、仮に彼女がミスをせずにネタをやりきったとしても、勝敗にはそれほど影響がなかっただろう。でも、そういう外からの評価とは関係なく、彼女は準備した通りのパフォーマンスができなかったことを悔やんでいた。やはりプロ2年目で『R-1』決勝の舞台に立つプレッシャーは尋常なものではなかったのだろう。

翌日のネットニュースの見出しを見ても、『R-1』に関して語られているのは「アキラ100%優勝」「ブルゾンちえみ号泣」の2つのみ。今年の『R-1』は、アキラが勝ってブルゾンが泣いた大会として記憶されるのだろう。ブルゾンが泣いたことは1つの事件であり、人々の間でもその評価は分かれる。世間ではおおむね好意的な評価が多いようだ。この事件は、彼女の今後のキャリアにとって重要なターニングポイントになるだろう。

今までの彼女は、芸歴2年とは思えないほどの堂々とした態度で話題をさらっていた。しかし、一通りの自己紹介が済んだ今、これからはバラエティタレントとしてのセカンドステージが始まる。ここからは「キャラ」ではなく「素の自分」を見せるべき段階に入る。悔しくて思わず泣き出してしまったのも、本来の彼女らしい姿なのだろう。これからはむしろそちらを見せるべき時期だ。早くも「2周目」に入った彼女のこれからの仕事ぶりにも期待したい。

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コラムニスト

ラリー遠田

ラリー遠田

1979年生まれ。東京大学文学部卒業。作家・ライター、お笑い評論家として執筆、講演、イベントプロデュースなど多方面で活動。主な著書に『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)がある。『ヤングアニマル』(白泉社)に連載中の漫画『イロモンガール』の原作を手がける。

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