コラム

ラリー遠田の"テレビのひとコマ"

加藤浩次「怖いからなしにしてるっていうのは自分の弱さですよ」/ノンスタ井上の謝罪会見を受けて…『スッキリ!!』

『スッキリ!!』/2017年3月8日放送・日本テレビ系

のっけから不謹慎な話で恐縮だが、「NON STYLE」の井上裕介の“あて逃げ事件”の第一報が報じられた際、私はそのニュース映像を見て思わず笑ってしまった。深刻な口調で読み上げられるニュースのバックで使われていたのが、劇場で明るくはしゃぎ、指を高く突き上げてナルシストポーズをきめている井上の映像だったからだ。「当て逃げしてカッコつけてる場合か!」というツッコミしか思い浮かばないほど、その立ち姿はあまりにも堂々としていた。

井上が運転する車の助手席に乗っていたのは「スーパーマラドーナ」の武智。『M-1グランプリ2016』で最終3組にまで残る死闘を演じて、これからの活躍が期待されていた中で、まさかの“巻き込み事故”。井上の出演を予定していた年末年始の特番でも出演シーンのカットなどの措置が執られた。

直接被害を受けたドライバーを除くと、最も深刻な被害を受けたと言えるのは相方の石田明だろう。しかし、石田は今回の事件で結果的に株を上げた。テレビカメラの前で相方に代わって謝罪の言葉を述べた上で、コンビ解散はしないと明言。自身のブログ(『いしだあきらのオカヤドカリなブログ』)では、井上は中学のときからの友人であり「美談とかでもなんでもなく、おれの人生から井上引っこ抜いたらおれの人生なんかペラッペラなんですよ。」と述べた。さらにブログはこう続く。

「それはこの先もそうなんです。例えば、おれがこの先どんだけ美味い飯食っても、その時井上がまずい飯食ってたら後味まずいんすよ。」(2016年12月20日の記事)

石田の相方に対する気持ちがまっすぐに伝わってくる。一方、同じ記事の中で、石田は井上のことは昔から嫌いだともキッパリ断言している。自己中でガサツで綺麗ごとばっかり、と容赦ない。その後、石田が単独でバラエティ番組に出たときにも、井上に対して普段から感じていた不平不満をぶちまけていた。ただ、よくよく考えてみると、石田の言っていることは事件前から何も変わっていない。彼は漫才の中でも井上のことを何かにつけて揶揄していた。

個人的には、単なるコンビの絆とか美談の話よりも、こちらのほうが本当の意味で「イイ話」だと思う。石田の発言は首尾一貫している。ただ、事件が起こったことで、世間の見方が変わったのだ。これまでは、石田がどれだけ必死に井上の悪いところを指摘しても、本人も観客もそれを半分笑いながら受け流しているようなところがあった。

ただ、事故が起こったことで、この構図がガラッと変わった。石田の役回りは変わっていないのに、井上本人はうつむきがちの謹慎生活に入り、世間は「あれ? 井上さんって本当にヤバい人だったの?」と気付き始めた。事故前も事故後も一貫して井上の言動に厳しい目を向けている石田は、芸人としても誠実だと思う。たぶん、石田の目から見ると、井上はもともと「違反」をしていた。ただ、それを取り締まる法律がなかったのだ。

3月7日(火)、井上は都内で謝罪会見を開いた。報道陣に囲まれながら、約50秒間も頭を下げて涙を流した。翌日の『スッキリ!!』でこのニュースが紹介されると、MCの加藤浩次は井上が会見の中で「事故を起こした自覚はなかった」と述べていたことに疑問を呈した。

「僕は素直に言いますよ。あの、まあ、(井上は)分かってるんですよ、ぶつかったことを。それを怖いからなしにしている。怖いからなしにしてるっていうのは自分の弱さですよ。人間、弱い部分はあって。こういった現実逃避したいときはあって。違う違う、って思おうとするっていうね。(ぶつかった)感覚がやっぱり井上にはあったんだよ、あのときは。そこはもう絶対ダメ。そこはダメ。そこはダメなんだということを、まあ本人ももう反省してると思うんだけど、そこだと思うんですよね。そこは会見の中で僕ははっきり聞きたかった」

同じ事務所の先輩だからこそ言える厳しい言葉ではあるが、井上という人間の本質を突いている。誰にだって弱いところはある。問題はそれを素直に認められるかどうかだ。ベッキーやファンキー加藤に続いて、「ポジティブ」を標榜する人間がまたしても奈落へ落ちていった今回の事件。彼らのポジティブ思考とは、自分にとって都合の悪いことを「なしにする」ためのツールだったのかもしれない。

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コラムニスト

ラリー遠田

ラリー遠田

1979年生まれ。東京大学文学部卒業。作家・ライター、お笑い評論家として執筆、講演、イベントプロデュースなど多方面で活動。主な著書に『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)がある。『ヤングアニマル』(白泉社)に連載中の漫画『イロモンガール』の原作を手がける。

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