コラム

ラリー遠田の"テレビのひとコマ"

有吉弘行「りこん星からやってきてくださった」/不思議ちゃんの後遺症…『有吉大反省会スペシャル 春のカミングアウト祭り』

『有吉大反省会スペシャル 春のカミングアウト祭り』/2017年4月1日放送・日本テレビ系

一昔前、まだ景気が良かった頃の平均的な日本の企業では、「何をしているのかよく分からない人」がオフィスには大量にいたという。特にこれといった仕事をやっているそぶりもなく、自分のデスクで新聞を読みながらお茶を飲んでいるだけ。こういう貴族みたいな暮らしをする社内ニートに給料を支払ってもやっていけるほど、昔の企業には十分な余裕があった。

今はそういうことはあまりない。パソコンが使えないオジさんは、本人が「使えない」と見なされ、即座にクビを切られてしまう。どこの会社にも何もしない人を雇っておける余裕はない。現在では、それぞれの社員がそれぞれの役割を持ち、組織の一部としての機能を担っている。

これと同じことがテレビバラエティの世界でも起こっているのではないか、というのが私の仮説だ。少し前までは、テレビに出る個々の人間に確固たる役割が与えられていたわけではなかった。芸能人だから、見た目がいいから、といった漠然とした理由でバラエティ番組の片隅に映っていることができた。

しかし、今は違う。バラエティという戦場で戦うためには、それぞれが武器を持っていなければいけない。肩書きだけを引っさげて手ぶらで出向いていっても、二度目はないだろう。

そんな中で、武器としての評価が年々変わりつつあるのが「不思議ちゃん(不思議キャラ)」である。不思議ちゃんには本物と偽物がある。そして、市場に出回っているのはほとんど偽物だ。なぜなら、文字通り本物の不思議ちゃんがいるとしたら、そんな空気の読めない人はバラエティでは使い物にならないからだ。当然、バラエティに出ている不思議ちゃんにはある程度の作為がつきまとうことになる。

しかし、私たちが覚えておかなければいけないのは、不思議ちゃんとは違法薬物のようなものである、ということだ。一瞬の爆発力はあるが、のちのち本人はその後遺症に苦しめられることもある。

小倉優子はかつて『しくじり先生 俺みたいになるな!!』(テレビ朝日)に出演したとき、その苦労を語っていた。デビュー当初、自分のキャラが定まっていなかった小倉は、安易な気持ちで不思議ちゃんに手を染めた。「こりん星から来た」というフレーズが評判になり、共演した芸人たちも面白がって、そこにいろいろな設定を付け加えていく。それに乗っかっているうちに、小倉は自分を見失ってしまった。

その後、夫の不倫疑惑が報道され、小倉は3月に離婚を発表した。そして、4月1日(土)放送の『有吉大反省会スペシャル 春のカミングアウト祭り』(日本テレビ系)に出演した。格好の獲物が現れたと言わんばかりに、有吉弘行はオープニングから目をギラつかせ、ニコニコしながら話しかけた。

「今日はあれですかまた、りこん星からやってきてくださった」

一発目から容赦なく体重の乗った打撃をお見舞いした。さらに、小倉の横にさとう珠緒が座っていることを指して「隣にも同じような嘘つきいますけど」と付け加えた。スポーツ新聞だったら「有吉、舌好調」などと書いているところだ。

この日の小倉が反省点として告白したのは、プライベートでギャル曽根と遊んだとき、待ち合わせに遅刻したことに怒り、一日中無視をしていたこと。一日中無視というのは確かにキツいが、話題としては実に他愛もないものだ。こりん星詐称疑惑、清純派のママタレが不倫されて離婚、といったヘビーな話題に比べると、持参してきたおみやげがあまりにも小ぶりであることは否めない。

案の定、その後の有吉とのトークでは離婚ネタがメインになる。ギャル曽根以外に人に怒ったことはあるのかと聞かれて、「一件しかない」と離婚のことをほのめかす発言をした小倉に、有吉がすかさず食いつく。

「我々はもう、ゆうこりんが結婚したときからカウントダウン始めてたから」

コントのスペシャリストであるバカリズムも「こんなオチの読めるコントない」と太鼓判を押す。小倉が、離婚後は仕事と子育てと家事に追われる日々で苦労が多く、洗い物をしながら泣いてしまうことがあるという話をしても、有吉は「これからはそうやって同情されながらがんばっていくのね」「なんでだろう、不思議と同情できないんだよね」とひたすら冷たく突き放す。

でも、最近めっきり丸くなったと評判の有吉がこれだけ生き生きとイジり倒せるのは、小倉にそれを受けきるだけの度量があると認めているからだろう。不倫されても離婚をしても、何があっても不思議と同情できない小倉は、サンドバッグの素材としては最適だ。不思議ちゃんの殻を破った小倉がこの番組で演じたのは「王様・有吉に捧げる供物」という役割だった。

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コラムニスト

ラリー遠田

ラリー遠田

1979年生まれ。東京大学文学部卒業。作家・ライター、お笑い評論家として執筆、講演、イベントプロデュースなど多方面で活動。主な著書に『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)がある。『ヤングアニマル』(白泉社)に連載中の漫画『イロモンガール』の原作を手がける。

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