コラム

ラリー遠田の"テレビのひとコマ"

今田耕司「……と言いますと?」/森脇健児の正しい楽しみ方…『オールスター感謝祭2017春』

『オールスター感謝祭2017春』/2017年4月8日放送・TBS系

関西人が「なんでやねん」と言うとき、その人は別に理由を聞きたいわけではない。「なんでやねん=Why?」ではないのだ。「なんでやねん」とは、すでに確立されたツッコミの決まり文句であり、そこに具体的に意味を問うようなニュアンスはいささかも含まれていない。仮に、なんでやねんと問われた相手が「なぜなら、その理由というのはですね……」などと理路整然と答えを返そうとしたならば、そう言われた関西人は一瞬の困惑ののち、まともに答えようとするという態度が1つの「ボケ」であると解釈して、再び「なんでやねん」を発することになるだろう。この不毛な問答には終わりがない。

日本中の視聴者が声を揃えて「なんでやねん」と叫びたくなる代表的な事案と言えば、森脇健児の「赤坂五丁目ミニマラソン」に対する異様な情熱だ。彼は『オールスター感謝祭』(TBS)の企画として行われるマラソンに命を懸けている。毎回、死んでもいいという覚悟で臨み、本番前には遺書を書いているほどだ。この企画の名物となっている「心臓破りの坂」を克服するために、あえて急斜面の土地に家を買い、毎日そこでトレーニングを続けている。

森脇のこの企画に打ち込む姿勢は、『SASUKE』(TBS)に出場する一般人たちとも共通するものがある。「なぜそこまで?」という問いを差し挟む余地がないほどのみなぎる気迫と情熱。ツッコミを拒否する純粋無垢なボケの結晶。どう見ても意味が分からないからこそ、我々凡人はそこに意味を求めてしまう。

しかし、そんな森脇の熱い思いとは裏腹に、マラソンの成績はずっと伸び悩んでいた。初出場した2003年に優勝を果たしたものの、それ以降は優勝を果たせないでいた。ところが、4月8日放送の『オールスター感謝祭2017春』では、そんな森脇に奇跡が起こった。いつになく快調に飛ばした森脇は、強豪たちを押しのけて、1位でゴールテープを切ったのだ。50歳で14年ぶり二度目の優勝。森脇はゴールしてすぐに床に仰向けに倒れ込んだ。

普通だったらここで「素敵やん」「泣けるやん」と言わんばかりの感動ムードに会場が包まれそうなものだが、すんなりそうさせてくれないのが森脇健児である。会場にいる芸能人も、テレビを見ている視聴者も、森脇が優勝したという事実をどういうふうに捉えたらいいのか決めあぐねている。

表彰台に上がった森脇は、コメントを求められて絶句し、長い長い鼻水をツーッと垂らした。この鼻水こそが「森脇劇場」、いや、「今田劇場」の幕開けのプレリュードだった。この番組のMCを務めるのは、バラエティの現場で空気を読んで的確な進行をすることにかけては右に並ぶ者がいない今田耕司である。森脇にコメントを求めた今田は「これは出させてやってくれ! この鼻水は!」とフォローしながら、次の言葉を待った。興奮気味の森脇がようやく口を開く。

「2003年の秋に初めて出させてもらって、それから……14年間、全く優勝なかったんで、優勝したかったんですよ。やっと優勝できた!」「毎日このために練習したらやっぱり、努力は裏切らないなって」

ここまで話したところで今田が言う。

「あの、もうちょっとマイク上げてもらっていいですか?」

マイクを口から離しすぎていた森脇をたしなめる一言。会場の空気がフワッと弛緩するのが感じられた。ああ、そうか、これって、笑っていいことなんだ。そんな空気をよそに、森脇はますますヒートアップしていく。

「いつも優勝する気で練習してるんですけどね、ここ立てないんですよ、ここは! やっぱハンデもあるし、ほんでまあ、仲間もいろんな仲間がおるから、みんな練習してるんで、真剣勝負で来てるんで、真剣……。赤坂には夢がありますよ! アカサカンドリームですよ!」

これを受けて今田は言った。

「……と言いますと?」

ドッと沸く会場。流れていた感動的な音楽もピタッと止まった。今田の一言は「アカサカンドリームですよ!」に対する100点満点の解答である。これを「正解」として額縁に入れて飾っておきたいほどの圧倒的正解。その後も今田は、熱弁する森脇を誘導して、再び「アカサカンドリーム」という言葉を引き出してから、「……と言いますと?」をかぶせていった。

そう、私たちは決して「アカサカンドリーム」を叶えたマラソン芸人の奮闘に感動したいわけではない。何でもないことに命を懸けてしまう不思議なおじさんの生態を観察して、気ままに笑ったり楽しんだりしたいのだ。今田は目の前の状況が視聴者にどう映っているかということを瞬時に見抜き、そこに寄り添った的確な仕切りとコメントで場を制圧して笑いを取る。「今田劇場」の支配人が、森脇というオモチャの新しい遊び方をひとつ教えてくれた一夜だった。

オススメ記事
コメント
もっと見る
話題の人物
コラムニスト

ラリー遠田

ラリー遠田

1979年生まれ。東京大学文学部卒業。作家・ライター、お笑い評論家として執筆、講演、イベントプロデュースなど多方面で活動。主な著書に『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)がある。『ヤングアニマル』(白泉社)に連載中の漫画『イロモンガール』の原作を手がける。

執筆記事を読む

あわせて読みたい
Recommended by A.J.A.

一覧へ戻る

ページTOP

ページTOP