コラム

ラリー遠田の"テレビのひとコマ"

梅沢富美男「テレビにガチなんかないじゃん」/テレビ局にとってありがたい「老害枠」…『アウト×デラックス』

『アウト×デラックス』/2017年5月18日放送・フジテレビ系

少し前、マツコ・デラックスの番組『夜の巷を徘徊する』(テレビ朝日系)に木村拓哉がゲストとして出演していたことがあった。そこで木村は「テレビ局の人間が自分たちじゃ言えないことを全部マツコに背負わせている」と発言。マツコは驚きながらもそれに同意していた。

木村がここで喝破したような「マツコ」と「テレビ局」の関係性は、ご意見番のような役回りを務めるほかの多くのタレントにも当てはまる。とにかく問題を引き起こすようなリスクを回避するということにとらわれがちな昨今のテレビ業界では、リスクはすべて出演するタレントや他の媒体に背負わせるのが合理的だということになっている。

「マツコさんがこう言っています」「『週刊文春』はこう報じています」などと自分たち以外を主体にする伝聞話法を駆使することで、番組側のリスクを最小限に抑えつつ、そこそこ刺激的で面白いオピニオンを提示するというリターンを得ることができる。

そんな中で、最近、梅沢富美男をバラエティ番組で見かけることがやたらと増えている。以前からテレビには出ていたし、顔も名前もそれなりに知られてはいた。しかし、なぜかここ数年、急速に露出を増やしてきている。それは、テレビ局のリスク回避志向が極限にまで達しているということを示しているのではないか、というのが私の仮説だ。

梅沢は「老害芸能人」などとしばしば揶揄される。たしかに、梅沢のバラエティ番組での言動は、どこをどう取っても正真正銘の「老害」そのものだ。ハンバーガー屋でハンバーガー40個を頼んだら、「こちらでお召し上がりですか?」と確認されたことに腹が立ったという話、コンビニでタバコを買うときに年齢確認をされて「オレが未成年に見えるか!」と怒った話など、今どき珍しいほどの純粋無垢な「老害」エピソードだ。2017年というこの時代に、この程度の話を本気で怒っているかのような口調で人前で堂々と話せるということ自体が、特殊な才能であると言ってもいいだろう。

5月18日(木)放送の『アウト×デラックス』(フジテレビ)でも、梅沢はいつもの調子だった。飲み屋でナンパした女性が娘の友達だったため、娘に「気持ち悪い」と言われた。娘の結婚相手である英語学校の関係者には会いたくないと思っている。なぜなら、英語が嫌いだから(外人も嫌い)。ゴルフに行くふりをして浮気をしたら、車にGPSが付けられていて妻にバレた――問答無用でガチガチに頭が硬く、妻子持ちでありながら女にはだらしがない。少し前まで「ゲス不倫」が流行語だったことを忘れそうになるくらい、梅沢は女遊びをしていることを嬉々として話す。

そんな梅沢は、老害なのにテレビに出られるのではなく、老害だからテレビに出られるのだと思う。そう、残念ながら、テレビには「老害枠」というものがある。テレビの視聴者の多くが「暇を持て余した高齢者」である以上、どんなバラエティ番組でもこの層をある程度はフォローせざるを得ない。そんなときに最適なのは、空気を読んで程よく凡庸な老害発言をしてくれる高齢タレントである。

これがなかなか難しい。高齢になるほど男性は保守的になり、バラエティ番組で軽く扱われることに耐えられないことが多い。梅沢は、バラエティ番組のルールの範囲内で求められた通りの老害キャラを演じている。このポジションを的確にこなせるからこそ、梅沢が今こんなにも引っ張りだこになっているのだ。

そして、梅沢自身もそんなことはとっくに分かっている。『アウト×デラックス』でも、それを思わせる発言があった。梅沢は、何にでも噛みつくキャラクターが定着しているため、テレビのスタッフから怒ることばかりを求められることにうんざりしているのだという。自分だって朝から晩まで怒っているわけじゃない、と。そして、テレビのスタッフがよく用いる「ガチ」という言葉も嫌いだと語った。

「テレビにガチなんかないじゃん」

幼い頃から大衆演劇の世界に身を置いていた梅沢には、人前に立つ人間は大衆が求めることをやるべきであるという考え方が染みついている。舞台の上で起こっていることやテレビの収録中に語っていることが、ガチであるはずはない。すべては演技であり、すべては作り物。そう割り切って何でもこなしてくれる梅沢は、テレビ側にとってはありがたい外注先ということになる。

和田アキ子にもかつての勢いが失われている今、梅沢富美男はバラエティ番組における「老害」需要を一手に担っている。年金、保険、雇用など、あらゆる分野で世代間対立がますます深刻化しているこの日本で、呑気に昔と変わらない安定した品質の「老害」を供給してくれる梅沢は、同じ世代の人間にとっては実に貴重な、それ以外の人間にとっては実に不可解な存在である。

オススメ記事
コメント
もっと見る
話題の人物
コラムニスト

ラリー遠田

ラリー遠田

1979年生まれ。東京大学文学部卒業。作家・ライター、お笑い評論家として執筆、講演、イベントプロデュースなど多方面で活動。主な著書に『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)がある。『ヤングアニマル』(白泉社)に連載中の漫画『イロモンガール』の原作を手がける。

執筆記事を読む

あわせて読みたい
Recommended by A.J.A.

一覧へ戻る

ページTOP

ページTOP