コラム

ラリー遠田の"テレビのひとコマ"

プラス・マイナス岩橋良昌「緊張して損したわ!」/若手芸人を惑わせる「爆笑問題」の信念と暴走…『バクモン学園』より

『バクモン学園』/2017年6月6日放送・テレビ朝日系

「オリエンタルラジオ」の中田敦彦が茂木健一郎の「日本のお笑いはオワコン」という説を支持したという武勇伝は、その後もいろいろなところに飛び火して、いまだにブスブスと火種がくすぶる事態になっている。そもそもの発端は、中田が自身のブログ記事で、茂木の主張に理解を示したことにあった。

「日本のバラエティ番組ではMCの権限が強すぎるために、タレント同士の力関係があまりにも強く画面に出てしまっている」ということを中田は書いていた。

たしかに、日本のバラエティ番組では、MCが絶対的な権限を握っていて、その人の価値観や考え方に基づいて番組全体の雰囲気が生み出されていることが多い。特に、MCが芸人である場合には、何を面白いと見なすのか、誰がイジり役で誰がイジられ役なのか、といった「笑いの価値基準」そのものがMCに全権委任されることになる。

ただ、ひとくちに「芸人MC」と言っても、その人がどのくらい強権を発動するかということに関しては個人差がある。その中でも一風変わっているのは、「爆笑問題」である。特に、田中裕二ではなく太田光がMCを担当する番組では、その異常さが際立っている。

『バクモン学園』(テレビ朝日)は、若手芸人が撮影してきた1分程度の動画を紹介していく番組。コンセプトそのものはきわめてシンプルだ。しかし、田中ではなく太田が進行役を務めることで、この番組には独特の空気が流れることになる。

6月6日(火)放送回では、「ミキ」、サンシャイン池崎、「ペンギンズ」、「プラス・マイナス」、「尼神インター」という今が旬の芸人5組が登場。それぞれが2本ずつ動画を持ち寄り、10本の中で厳選された5本だけが番組内で紹介されることになっていた。

番組の冒頭では、池崎がハイテンションぶりをアピール。前方に座っていた「ミキ」の昴生の耳元で「サイコーーー!」と叫んだ。すかさず太田も田中に近寄り、耳元で「サイテーーー!」と叫んで対抗する。さらに、池崎が昴生の股間に鉢巻きを通して持ち上げ、「瀬戸大橋!」と言うと、太田も田中を立たせてむりやり股間を引き上げようとした。田中が抵抗しても太田はしつこくそれをやり続け、着地点もなくグダグダになったまま、強制的にカットが切り替わりそのくだりが終わった。

本来ならば、ボケ役である太田の暴走を止めるのがツッコミ役の田中の役割だろう。だが、この番組では田中もひどい。若手芸人に混じって田中が特別に披露した動画では、猫のキャラクターに扮した田中の取るに足りないピン芸が展開される。「つまらない」という方向でイジっていいのかどうか分からないレベルのつまらなさ。しかし、田中自身は「こう見ると、一番正統派でしょ?」となぜか胸を張る。雛壇に座っていた若手芸人たちは、「これはどっちだ?(面白くないと言っていいのか、いけないのか)」という戸惑いの表情を浮かべていた。

また、「プラス・マイナス」の兼光タカシがオール巨人のものまねを披露して、それに合わせて相方の岩橋良昌がオール阪神の声真似をすると、太田は「田中も昔からオール阪神のものまねを得意としていた」と主張。ネタを振られた田中は勢いよく「車にポピー!」と叫んだ。ネタのクオリティはどう贔屓目に見ても30点に及ばない。これに関しても若手芸人たちは「これはどっちだ?」の反応をしていた。太田はもちろん、田中さえもどう返したらいいか分からない行動に出て、若手を惑わせる。

エンディングのスタッフロールが流れる短いパートでは、なぜか太田が昴生の下半身を集中的に責め立てていた。この流れも終着駅が見失われたまま、グダッとした状態で乱暴に投げ出された。一部始終を見届けた岩橋は前に出てきて一言。

「俺が思ってるテレビと全然違うぞ! なんやこのテレビは! 緊張して損したわ!」

きっちりとMCの仕事をこなす優秀な吉本の先輩芸人たちを見慣れている岩橋にとって、グダグダになることを一切恐れない太田の暴走は異様なものに見えたのだろう。「緊張して損した」という言い回しに彼の実感がこもっている。サッカーの試合に備えて必死で練習してきたら、本番で行われたのはテニスの試合だった。そんな気分だろうか。

ただ、実のところ、「爆笑問題」というコンビがこういう立ち振る舞いをするのは確固たる信条に基づいている。彼らはインタビューなどでも事あるごとに「芸人はこうあるべきだ」「テレビではこう振る舞うべきだ」といった暗黙のルールには馴染めないと語っている。テレビには誰が出てもいいし、何をやってもいい。どう転がったとしても、最終的に視聴者が楽しめればそれでいい。面白さにたどり着くための方法はひとつではない、というのが「爆笑問題」の信念だ。

実際、太田が隙だらけの進行をして道化役に徹することで、スタジオには独特のゆるい空気が流れている。そのために若手芸人たちはのびのびと振る舞うことができる。そして、それがほかの番組にはない魅力になっている。

「芸人」という肩書きにも「MC」という役割にも縛られない「爆笑問題」は、茂木が批判する「空気の読み合い」とは無縁だ。太田がかき回し、田中が振り回す。これはこれでテレビの健全なあり方のひとつである。テレビという器はそんなに小さいものではないのだ。

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コラムニスト

ラリー遠田

ラリー遠田

1979年生まれ。東京大学文学部卒業。作家・ライター、お笑い評論家として執筆、講演、イベントプロデュースなど多方面で活動。主な著書に『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)がある。『ヤングアニマル』(白泉社)に連載中の漫画『イロモンガール』の原作を手がける。

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