コラム

ラリー遠田の"テレビのひとコマ"

東野幸治「カクテルタナカの受け口、ズルくないですか」/地上波で一番底意地が悪い番組…『あらびき団夏祭り』

『あらびき団夏祭り2017』/2017年7月13日放送・TBS系

「この番組のスタッフ、アタマおかしいやろ!」

あなたもテレビを見ていて、芸人がこんなことを言うのを一度や二度は聞いたことがあるのではないだろうか。出演者が番組スタッフのことを話題に出す、いわゆる「スタッフイジり」は、いまやバラエティ番組では当たり前のように見られる現象だ。

黎明期のテレビは、歌舞伎や演劇の延長線上にある「ショー」の一種だと認識されていたので、出演者がスタッフに言及することはなかった。それは、舞台を成り立たせるルールを壊す無粋な行為だと考えられていた。

しかし、テレビバラエティ文化が成熟してくるにつれて、出演者はしばしばスタッフのことを話題に出すようになってきた。テレビ番組において、出演者はスタッフの演出意図に従って行動している。そこには絶対的な上下関係がある。だからこそ、出演者はあえてスタッフをイジる。それによって、スタッフは出演者と視聴者にとって共通の敵であると認識され、視聴者との心理的な距離が縮まる。

――いきなり大上段からテレビ論をぶってしまったわけだが、私が何が言いたいかというと、『あらびき団』の東野幸治はすごい、ということだ。芸人、パフォーマー、一般人など、あらゆる種類の「あらびきスター」が集結する異色の番組『あらびき団』では、MCの東野がしばしばスタッフについて言及することがある。しかし、それは一般的な「スタッフイジり」とは少し趣が異なる。

順を追って説明しよう。7月13日に放送された『あらびき団夏祭り2017』は、かつてレギュラー放送されていた『あらびき団』の単発特番である。どぶろっく、エハラマサヒロ、ハリウッドザコシショウといったこの番組でお馴染みの準レギュラー陣に加えて、初登場組も多数出演していた。

この番組は、彼らが披露するネタと、それを意地悪な目線で演出するスタッフと、そこに鋭いコメントを添える東野の三段構えでできている。これを順番にたどっていくのが面白い。2ステップを経た後で最後に待ち受けている東野のコメントは、カニで言うならカニみそ。舌の肥えた人間だけが味わえる究極の珍味である。

『あらびき団』を見るときには、ネタ中やネタ終わりの東野のコメントに耳をすませてほしい。「白い悪魔」と呼ばれた彼の常人離れした観察力と底意地の悪さが生み出す珠玉の言葉を漏らさず聞き取ってもらいたいのだ。

例えば、みさわ大福がいろいろな芸人のギャグを歌詞に盛り込んだ歌を歌うネタを披露した場面。最近の若手芸人のギャグばかりが並ぶ中で、唯一、チャーリー浜の「君たちがいて僕がいる」を使ったところで、東野は「浜裕二さん」とぽつりとつぶやいた。なぜチャーリー浜を昔の芸名で言う必要があるのか。

なんでんかんでん社長が音痴なアイドルに歌がうまくなる催眠術をかけたが、まったく効果がなかったという場面。社長が苦虫をかみつぶしたような顔をしているのを見て、東野は「めっちゃキレてるやん」と指を差してゲラゲラ笑った。チャラすぎる女性ピン芸人・ゆーびーむ☆がネタをやっている場面では、笑いながら「あんなメイク流行ってんの?」と言って微笑んだ。

そして、問題の場面である。卓球ユーチューバーのぴんぽんが卓球の超絶テクニックを見せている中で、VTRでは球出しを担当しているカクテルタナカの表情がなぜかアップで映し出された。本筋とは関係のないところに目を付けるスタッフの悪意に気付いた東野は、ゲストの指原莉乃にこう語りかけた。

「この番組ね、過去10年間の地上波で一番底意地が悪いの」

これはいわゆるスタッフイジりではなく、東野の偽らざる本音だろう。そして、資料としてぴんぽんとカクテルタナカのツーショット写真を見せられた東野は、脇役なのに少し前に出ているカクテルタナカに違和感を持つ。

「アシスタントのくせにちょっと前に来てませんか」
「卓球ユーチューバーを追い抜いて、この写真も半歩前で写ってませんか」
「カクテルタナカの受け口、ズルくないですか」

この番組で東野は「スタッフの演者に対する扱いがひどい」ということをしばしば口にする。しかし、東野はフォローするふりをしながら、とどめを刺すような悪口を後乗せしてくることも多い。

あらびきスターは二度死ぬ。一度目はスタッフが刺し、二度目は東野が刺す。死体に迷わず剣を突き立てる東野のほうが、より常軌を逸しているのかもしれない。そんな東野の一挙手一投足から目が離せないのは、私を含む『あらびき団』愛好家たちの頭も相当どうかしているからなのだろう。悪意の波状攻撃に脳を焼かれたあらびきジャンキーは、今もこの番組のレギュラー復活を心待ちにしている。

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コラムニスト

ラリー遠田

ラリー遠田

1979年生まれ。東京大学文学部卒業。作家・ライター、お笑い評論家として執筆、講演、イベントプロデュースなど多方面で活動。主な著書に『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)がある。『ヤングアニマル』(白泉社)に連載中の漫画『イロモンガール』の原作を手がける。

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