コラム

ラリー遠田の"テレビのひとコマ"

ブルゾンちえみ「売れてすぐ」/一発屋にならない“芸人ブランド戦略”…『今夜くらべてみました』

『今夜くらべてみました』/2017年7月19日放送・日本テレビ系

人は「一発屋」の話が大好きだ。新しい芸人がテレビに出てくると、すぐに「コイツもどうせ一発屋になるよ」みたいなことをしたり顔で言いたがるオジさんがいる。そういう人の中には「こんな芸のないヤツが売れるのはけしからん。コイツはどうせ一発屋になるだろう、いや、なるべきだ」などと本気で考えている人もいて、最近ではアキラ100%あたりがこのタイプのオジさんにやり玉にあげられることが多いようだ。彼らは流行りの芸人に上から目線で苦言を呈することで溜飲を下げる。芸人をまるで安倍政権か何かのように、気軽に批判してスッキリするための対象として考えているようなところがある。

そんなわけで、2017年のお笑い界で最も華々しい快進撃を続けているブルゾンちえみに対しても、「これから大丈夫なのか」「一発屋になってしまうのではないのか」などという声がちらほら聞こえてくるようになってきた。ただ、彼女の現状はすでにそういう感じではないんじゃないかな、というのは声を大にして言っておきたい。

ブルゾンは、一発屋になるとかならないとか、そういう従来の物差しでは測れないような新しいタイプの芸人なのではないか、というのが私の考えだ。芸人だからこうしなければいけないとか、芸人だからこうやってボケるべきだとか、そういう土俵で戦っていないような気がするのだ。

そもそも、ピン芸人なのに男性2人を引き連れてネタを演じるというスタイルが普通ではない。王道か邪道かと言われれば間違いなく邪道だろう。ただ、ブルゾンにしてみれば、“なぜか3人で出てくる”という面白さを狙っているわけではない。彼女はただ、男性2人をそこに「配置」したかったのだ。オブジェのようにそこに置きたかっただけ。自分が理想とする空間を作るために、屈強な男性2人がそこに必要だったから置いているだけなのだ。発想の根底に「芸人」とか「演芸」の要素が感じられない。

だからこそ、テレビでもブルゾンに対して芸人的なことはあまり求められていない。何かを振られて気の利いたボケを返す、というようなことは期待されていない。むしろ、持ち前の「いい声、いい顔、いいキャラ」を生かして、ありのままにそこにあることが求められているようなところがある。ドラマ出演もそういう種類の仕事として位置づけられるだろう。

いわば、ブルゾンの基本的なブランド戦略は「待つの」の一手。若手芸人っぽくガツガツしたりせずに、与えられた場所で自分らしさを発揮することに専念しているのだ。

最近のブルゾンは、バラエティ番組などに出ていても、完全に「通用している」という感じがある。切り返しが鋭くて面白いとか、頭の回転が速いとかではなく、当たり前のようにそこに出ていて、場に馴染んでいるように見える。駆け出しの若手芸人は、急にテレビに出てもだいたい何かしらの違和感を放っているものだが、ブルゾンには初めからそれがなかった。芸歴2年目で右も左も分からないうちに世に出てしまったことで、いい意味での素人っぽさを保つことができたのかもしれない。

7月19日(水)放送の『今夜くらべてみました』(日本テレビ系)ではブルゾンがゲストとして登場していた。恋愛の話を振られて「売れてからは男性とのお付き合いをしていない」と答えた。そこでMCの後藤が「じゃあ、正月からキスも何もしてない?」と話を振ると、ブルゾンは「あ、あ、ちょっと……」とあからさまにうろたえた。後藤が食い気味に「あんのかい!」とツッコんだ。

そこで、ブルゾンは最近の恋愛事情を赤裸々に打ち明けた。自分の顔が知られてしまっているので、日本人とはそういう関係になりづらい。だから、知り合いの「ネパールコミュニティ」で異性との出会いを求めているのだという。ブルゾンが過去に3人のネパール人と交際経験があるのは有名な話だ。ブルゾンに言わせると、ネパールの人たちは「安全地帯」。情報が漏れることもないし、日本人との関わりもない。

「ブルゾンちえみを抱いたぞ、とか言う人もいないし」

ここでまた「抱かれる気かい!」とツッコミが入った。後藤は疑念を持った。この答え方からすると、ブルゾンは完全に自分から抱きに行っているのではないか。そこで後藤は尋ねた。この半年ぐらいの中で何月ぐらいにそういうことがあったのか、と。ブルゾンのネタでおなじみの『Dirty Work』のあの音楽が流れ、ブルゾンが「35億」と同じ調子でこう答えた。

「売れてすぐ」

売れてすぐの1月に、ネパールコミュニティの誰かを抱きに行っていた、という大胆な告白。今どきの女性芸人のエピソードトークとしては、ちょうどいい温度のぶっちゃけ具合。これが自然にできているところが、ブルゾンの人気が続いている理由ではないかと思う。

この後にも「(おとなしい人が好きなので)最近は藤井四段が気になっている」と言ってみたり、ネットニュースの見出しになりそうなポップな発言が続く。彼女は、ナチュラルに振る舞い、ナチュラルにいい感じの女としてテレビに出ることに成功している。

そもそも、ナチュラルではないキャラクターで売れてしまった人こそが、のちに「一発屋」と呼ばれがちなのではないか。自然体のブルゾンは当初からそのカテゴリーには属していない。キャリアウーマン的な「イイ女」のキャラクターを売りにしているブルゾンは、テレビを作る側にとって「使い勝手のイイ女」でもあるのだと思う。

オススメ記事
コメント
もっと見る
話題の人物
コラムニスト

ラリー遠田

ラリー遠田

1979年生まれ。東京大学文学部卒業。作家・ライター、お笑い評論家として執筆、講演、イベントプロデュースなど多方面で活動。主な著書に『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)がある。『ヤングアニマル』(白泉社)に連載中の漫画『イロモンガール』の原作を手がける。

執筆記事を読む

あわせて読みたい
Recommended by A.J.A.

一覧へ戻る

ページTOP

ページTOP