コラム

ラリー遠田の"テレビのひとコマ"

オードリー春日俊彰「なるほどね、私がバカだからね」/「東大受験」という無謀なる挑戦…『得する人損する人』

『得する人損する人』/2017年7月27日放送・日本テレビ系

テレビは東大が大好きだ。東大とか東大生とか東大卒を取り上げるような企画には常に一定の需要があり、ここ最近は特にそれが高まっているようだ。今年4月には東大生チームと挑戦者チームがクイズで対決をする『東大王』(TBS系)という番組まで始まってしまった。「東大生→頭がいい→クイズが得意」といういかにも頭の悪そうな連想からこの手の企画が次々と生まれているわけだが、「日本全国の老若男女」という広すぎる層をターゲットにするテレビというメディアにおいては、東大ブランドの圧倒的な分かりやすさはいまだに強力な武器となっているのだろう。

「あの豊田真由子議員も実は東大出身」というような文脈においても、東大ブランドは有効に機能している。この場合は「東大なのに」というふうに、悪事を引き立たせるための「フリ」として東大が用いられている。良いことがあれば「さすが東大」と言われ、悪いことがあれば「東大なのに」と言われる。どちらにせよ、俗世とは交わらない絶対的な権威として「東大」が位置づけられていて、肩書だけがその都度、都合よく取り上げられているという印象を受ける。

そんなわけで、「東大受験に挑戦する」という企画も、テレビの歴史の中ではたびたび行われているが、実際に合格したという話はほとんど聞いたことがない。勉強の過程だけが取り上げられて、結果はうやむやになって終わることがほとんどだ。「東大受験」は企画としてキャッチーで分かりやすいので、テレビ制作者ならばついつい手を出したくなる。しかし、それで実際に受かってしまうことはほとんどない。その程度には東大の権威は「本物」だということなのだろう。

そして今、新たにひとりの芸能人が東大受験に挑戦するということで話題になっている。「オードリー」の春日俊彰が『得する人損する人』(日本テレビ)の企画で東大に挑むというのだ。このニュースを初めて知ったとき、私は直感的に「あっ、いいな」と思った。「春日」と『得する人損する人』という組み合わせが、絶妙にポップで軽くてちょうどいい、と感じられたのだ。

率直に言って、この2017年に、東大受験を真正面からテレビの企画として扱うとしたら、それはちょっと古臭いのではないかという感じがする。でも、今回は違う。何しろ、番組は『得する人損する人』であり、挑戦者はあの春日なのだ。この番組で普段やっているのは、家事や料理のテクニックを紹介するような生活に密着したネタばかり。そこで、私たちの日常と何の関係もない「東大受験」をあえて取り上げるというのが、バカバカしくていい。

家事に効く「得ワザ」をたくさん紹介している番組が、今回は東大受験で脳に効く「得ワザ」の有効性を検証する、というのが企画の趣旨だ。家事と受験勉強を同じレベルで並べてしまうこの大ざっぱな感じがたまらない。今どきの東大受験企画はそのぐらいの軽さで取り組むのがちょうどいい。意地悪な言い方をするなら、「どうせ受からないんだから」。

そして、挑戦者として春日ほどふさわしい人間はいないだろう。これまでにも、ほかの番組の企画でストイックに練習に取り組み、フィンスイミングやボディビルなどで華々しい成果を収めてきた。春日なら何かやってくれるんじゃないか、という謎の期待感を視聴者に与えられるところが彼の魅力だ。

6月某日、番組スタッフが春日に東大受験の企画を持ち込んだ。春日は「いや、間に合うわけないでしょ」と難色を示した。そして、インテリタレントとして知られるカズレーザー(メイプル超合金)のように、自分よりもふさわしい人がいるのではないか、と主張した。

しかし、スタッフは譲らない。もともと頭のいい人だと、万が一合格したときに「得ワザ」のおかげじゃないと思われてしまう。本人の資質があったから合格できたのだ、と思われてしまってはいけないというのだ。

「その点、春日さんが合格した場合、純粋に『得ワザ』のおかげじゃないかって皆さん思うんじゃないか」

スタッフにそう言われて、春日は答えた。

「なるほどね、私がバカだからね…うん、じゃないんだよ! そこは否定するところだろ。失礼だぞ」

ここで「春日の華麗なノリツッコミが決まったところで」とナレーションが入った。現場にいるスタッフ、ナレーター、視聴者、全員が全員、春日をナメてかかっている。そう、これでいい。ノリツッコミの1つもまともにできない春日だからこそ、東大に挑戦する意義がある。

こんな人が無謀にも東大を受けようとするというのが面白いし、万が一いい線いくようなことがあったら面白いし、受かってしまったらもっと面白い。どう転んでも面白くなりそうな見込みがあるのは、「春日」がそれだけの器を持ったタレントだからだ。何でも吸収する春日という“スポンジ”は、東大受験に必要な知識をどこまで吸収できるのだろうか。

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コラムニスト

ラリー遠田

ラリー遠田

1979年生まれ。東京大学文学部卒業。作家・ライター、お笑い評論家として執筆、講演、イベントプロデュースなど多方面で活動。主な著書に『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)がある。『ヤングアニマル』(白泉社)に連載中の漫画『イロモンガール』の原作を手がける。

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